神奈川・葉山町のマリーナを目の前に臨む立地に昨年11月、絵本専門のブックカフェ「peekabooo」がオープンした。大人も子どももゆったりと過ごせる空間を「家庭でも学校でもない駆け込み寺」のように活用してもらいながら、「親子のコミュニケーションの復活」を目指す。元保育士の店主・田中亜希子氏に取材した。(ライター・沢田徹)
店主は元保育士の田中亜希子氏/子育て相談〝駆け込み寺〟の場に/
昨年11月オープン/
昨年11月3日にオープンした絵本ブックカフェ「peekabooo」。店名は、英語圏で「いないいないばあ」の時に使うフレーズ「Peek―A―Boo」をもじったものだ。
自身の子育てに加え、地元・葉山の保育園で保育士として14年間従事した経験をもつ田中亜希子氏がひとりで切り盛りする。
保育士時代、児童のひとりから「先生は大きくなったら何になりたいの」と素朴な疑問をぶつけられた。子どもの命を預かる仕事の重圧からやや体調を崩していた折、もともと自分の店をもちたいと思っていたのを後押しされた気分だった。
そんな時、親族が所有し、田中氏の母も働いていた食堂の物件が空いたことから、クラウドファンディングを活用して開店に漕ぎ着けた。目の前が海という立地条件にも関わらず、親族の物件ということで家賃を安く抑えることができた。
営業時間は午前10時から午後5時まで。日曜日のみ、港で市があるので午前8時半に開店する。定休日は火曜日と、月1回の月曜日。
約14坪に約400点の絵本を在庫する。仕入先は子どもの文化普及協会。展示している絵本は、子どもが手に取って汚してもいいようにすべて見本で、別に1冊ずつ在庫をもっている。未就学児向けの絵本がよく売れる。
絵本の陳列はテーマ別で、「ねんね」「たのしいやりとり」「どうぶつとどきどきわくわく」「季節に合わせた絵本」など、内容がわかりやすいように工夫している。
店舗にある絵本はすべてネットでも購入可能。一冊ずつコメントを考えている。保育士用に手作りの保育教材も販売する予定だ。
子どもがゆっくり本を読める/安心できる憩いの空間/
絵本専門という業態にしたのは、保育士時代に、子どもの成長にとって絵本がいかに大切かということを感じていたからだ。特定の絵本が好きというよりも、絵本に見入る子どものキラキラとした眼差しや反応が好きで、薦める絵本はケースバイケースという。
ブックカフェという形態を選んだのは、神奈川・鎌倉市で絵本作家の中川ひろたか氏が経営する「SONGBOOKCafe」に影響を受けたからだ。本屋とカフェがある空間で男の子が本を読んでいる風景を見て「いいなあ」と思った。絵本を売りたいというよりも、「こういう環境をつくりたい」という気持ちの方が大きかった。
peekaboooの奥には小上がりのスペースがあり、チャイルドチェア、バウンサー、おむつ替え台、昼寝マット一式、トイレ補助椅子、補助便座などを用意している。
「お子さんが座ってゆっくりと本を読めるのが、当店の良いところだと思います」
物件がもとは食堂だったので、厨房などはそのまま使えた。
「昔から近隣に住んでいらっしゃる方のなかには、『ここ食堂でしたよね?』と言って下さる方もいます」
メニューはパンなどの軽食に加え、スペシャルティコーヒー専門店「THE COFFEESHOP」の豆を使ったコーヒーや、地元で活動している一般社団法人「はっぷ」によるハーブティーなどを提供する。お茶だけを目当てに来店する客も多いという。
店のロゴはテレビ番組キャラクターなども手掛ける木版画イラストレーターの宇田川新聞氏によるもので、オリジナルの雑貨として販売しているトートバッグもそのロゴ入りだ。
貸切りスペース提供も/
客層は子ども連れを含む女性客がやや多いが、大人の男性客もいる。地元客のほか、県内から来店する人や、葉山に別荘をもち週末を過ごしに来る人などもみられるという。SNSを見て知ったという人や、グーグルマップで知って来店したという外国人観光客も多い。
客の滞留時間は1時間程度と長め。1時間1500円(2時間単位)の貸切りスペースとしても提供し、今後はベビーマッサージなどでの使用を予定している。
店が主催するイベントは過去に行ったことがあるが、ひとりで切り盛りしていることもあって現在は休止中。今年5月には、毎年ゴールディンウィークに開催されている葉山芸術祭に参加し、ワークショップと物販を実施した。
売上げは非公開で「まだまだ目標には遠い」というが、目下店の認知度の向上に努めているところだ。保育園や子育て支援センターでのポスター掲出に加え、今後は補助金なども活用したうえで広報紙やタウンニュースなどにも掲載していきたいという。
「地元のリピーターのお子さんが、以前は歩けなかったのに歩けるようになっていたりするのを見ると、我が子のことのように嬉しいものです。子育て中の方から心配事の相談を受けたりすることもあります。AIに頼る方も増えていますが、ぜひこの店を駆け込み寺のように使ってほしい」と田中氏。
「そんなことはありえないと思いますが」と苦笑しつつ前置きし、「行列ができるような店ではなく、コンスタントに来て頂ける方が増えるといいですね。おうちでもないし、学校でもないし、部活でもない。いわば、昔近所にあった駄菓子屋さんのような、安心できる憩いの空間を目指したいのです」と語る。
絵本を読んでいる子どもとそうでない子どもの間には、情緒的な差が出てくると田中氏は指摘する。保育士時代の経験から、絵本以外の部分も含めて、親子の関わり方を見ている。
「忙しいと、つい『これを見てて』とスマホだけ渡してしまう親御さんもいるかと思います。寝る前の読み聞かせなど親子で絵本を開く時間が毎日少しでもあれば、機械を介さないコミュニケーションの活性化にも繋がるのではないでしょうか。親子のコミュニケーションの復活は、私のひとつのテーマですね」とまとめた。
出典:新文化オンライン2026年10月8日号 8面
(https://www.digitalshinbunka.jp/PB3854PCS_000/index.php)
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