2022年、東京・立川市にオープンした猫専門書店「necoya books」。韓国生まれの柳智恩(ユウ・ジウン)氏がひとりで切り盛りし、和書のほか韓国語や英語の猫本も取り扱う。出版業界未経験から異国の地である日本で書店開業に至る歩みと、現在の状況を取材した。(ライター・沢田徹)
「夢の猫本屋~」参考に起業/
韓国生まれ米国移住、日本企業就業経て/
JR立川駅から徒歩12分の場所で、necoya booksがひっそりと営業している。2022年8月8日、「世界猫の日」にオープンした。
柳氏は家族でアメリカに移住して現地の高校、マサチューセッツ工科大学で学び、大学の企業研修制度で日本の企業に就職した。コンサルティング会社とIT系企業を経験した。
もともと本が好きで、日本で生んだ子どものために絵本を選んだりしているうちに、自分が飼い主でもある猫の専門書店というアイデアを思いついた。
開店にあたっては、地元韓国の猫専門店「チェクボニャン」を見てとても刺激を受けた。また東京・三軒茶屋の猫専門書店「Cat’s Meow Books」(世田谷区)の開業物語を描いた『夢の猫本屋ができるまで』(集英社)を読んで参考にもしたという。
「畑違いの出版業界で初めて本屋をやることに不安はありました。ただ、既存店と競合しない立地で店の特色を出せば、やっていけるのではないかとも考えました」と柳氏は言う。
トートバッグ・バッジ・文具など/猫関連の雑貨も人気/「書店+ギャラリー」7坪の店舗/
営業時間は正午から午後6時。定休日は木・日曜日。店舗は1階の書店部分と2階のギャラリーを合わせて約7坪。
韓国語・英語の〝猫本〟も扱う/
本の在庫数は約1500冊。ジャンルは写真集、小説、絵本、漫画、実用書、雑誌と様々だ。言語別では7割が日本語、2割が韓国語、1割が英語の本。韓国語の本は前出のチェクボニャンなどから仕入れ、英語の本は実家のあるアメリカに柳氏が出向き、現地調達して自分で運んだものを並べている。
日本語の本の仕入れ先は子どもの文化普及協会。その他、展示会などの企画にあわせて出版社から直取引で仕入れるケースもある。
店内で、本と並んで存在感を放っているのが、多種多様な猫にちなんだ雑貨類。トートバッグやバッジなどが賑々しく陳列され、ノートやポストカードなどの文房具がとくに人気だという。日本でも翻訳され、書店で展示会なども行われた韓国の人気絵本作家チェ・ヨンジュ氏の関連商品などは、それ目当てに来店する客もいる。
ペット用品も扱い、来年4月に開催予定のペット産業見本市「インターペット東京」にも出店する予定だ。
2階のギャラリーでは座談会や本の読み聞かせなども行うが、基本的には絵本の原画展や企画展中心。3週間ごとに入れ替える。
客層は40~60代女性が中心/
客層は圧倒的に女性中心。年齢層は40~60代が多く、滞留時間も長い。1点・1冊の在庫が多いので宝探しのように本を探している姿が見られる。
「当店は猫の本のパラダイスと言えます。ただし、他の店で売れる本はあまり売れないという傾向がありますね。猫図鑑などは人気商品ですが」
東京近郊の客が多いが、SNSによる発信を見て遠方から目指して来る客も多い。外国人もしばしば訪れる。
開店から3カ月ほど経ってからECも開始した。こちらも好調で、海外からの注文やリピーターも多い。
韓国でも猫はペットとして人気で、猫関係の本が多く出版されているそうだが、「日本の猫本のラインアップはより充実している」と柳氏は太鼓判を押してくれた。
猫にまつわる社会活動に寄付/
そんな柳氏いちおしの猫本は、山崎泰子氏による黒猫の絵本『Mon Cheri モン・シェリ』(21年刊、自費出版)。24年に完売してプレミア化していたが、このほど改訂版の刊行が決定し、necoya booksでも予約を募っている。
ちなみに柳氏が飼っている3匹の猫のうち1匹は黒猫であるだけに、黒猫には思い入れがあるという。ギャラリーで10月には猫の肖像画家・Cimi Cat Painter(チミ)氏による黒猫の作品だけの個展を、12月には山崎氏の個展を開催する予定だ。
猫にまつわる社会活動も行い、地元の環境保護団体や猫の保護を行っているボランティア団体への寄付金として、一部のグッズの売上げの1割や客からの寄付をあてている。
「本と猫は相性がいい」/
日本では書店の閉店が続くなか、独立系書店の開業は増えている。そのなかでも、necoya booksは猫専門店という独特の立ち位置を選択した。「本と猫は相性がいいんです」と柳氏は言う。
もっとも、スタッフを増やす余裕はなく、当面はひとりで現在の業態を継続していく考えだ。
「最初の直感を信じて、自分のやりたいようにやろうと思っています。お客さんも猫みたいな人が多いので(笑)、私のほうから声をかけることはありませんが、お客さんからの声かけや問合せから会話が盛り上がることもしばしば。お客さんに猫パワーで幸せになってもらいたい、猫を通じて盛り上がってもらいたいというのが私の願いです」
出典:新文化オンライン2026年7月16日号 8面
(https://www.digitalshinbunka.jp/PB3854PCS_000/index.php)
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