ビール醸造家が書店開業、読み手のなかで〝発酵〟する思想を/本とビール・カモシカ店主:伊藤ケンジ氏

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 埼玉・飯能市のシェアスペース「偏愛デパートメント・やまにわ」内に2月、「本とビール・カモシカ」がオープンした。
 店主の伊藤ケンジ氏が、クラフトビールと骨のある人文書を提供する。飯能駅と観光名所である天覧山を繋ぐ商店街で、イタリアングレーハウンドのオレオ店長がハイカーたちを出迎える。
 「店のテーマは『発酵』。すぐに役立つノウハウではなく、発酵食品や酒のように、時間をかけて読み手のなかで発酵させられる思想を届けたい」と伊藤氏は話す。
 一冊!取引所、Foyer、八木書店、子どもの文化普及協会などから買切条件で仕入れた本を、約400冊在庫する。約10坪に哲学、文学、自然科学、経済から健康や暮らし、文章本などが並ぶ。いずれも一風変わったラインアップで、消費社会を懐疑的に眼差す切り口が特徴的だ。
 伊藤氏は1967年、愛知生まれ。長らく広告関係の仕事に従事してきた。「まさに資本主義の最前線みたいな現場で。ネオリベラリズムが日本に定着した2000年頃から、仕事に疑問を感じるようになってきました」
 そんな折、趣味が高じて飯能でのブルワリー立上げに参画。醸造家として研鑽を積み、佐賀県の醸造所で開発したバーレーワインという長期熟成のビールでインターナショナル・ビアカップ2024の金賞を受賞する(カモシカでも販売)。
 ブルワリーでの仕事をひと段落させ、次のステップを模索するなかで独立系書店に着目。もともと本好きで、多読癖があった。有名店を巡って情報収集を重ね、蔵書をブックマルシェに出品するなど約2年の準備期間を経て開店に漕ぎ着けた。
 開店から約3カ月。ハネムーン期を過ぎたここからが正念場だ。「やはり本の原価率の高さが課題。買切なので、補充して回転させるのも難しく、現状は飲食の利益に依存している状態」と伊藤氏。
 一方で、選書が一部の客の感性にフィットする手応えも感じている。開店間もなく、イスラエルとアメリカによるイラン攻撃が始まったことを受け、戦争関連本を入口付近に集積させた。
 「店に色が着くことが怖くてためらいもあったのですが、地元のお客さんからは『こうしたことを発信・共有してくれる場ができてうれしい』との言葉をもらえて、やって良かったと感じました」
 今後、イベントや棚貸しに注力して客同士の交流を活性化させ、地元の文化を醸す拠点にしていければと展望した。
(杉)

 出典:新文化オンライン2026年6月11日号 1面
(https://www.digitalshinbunka.jp/PB3854PCS_000/index.php) 


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